地球での60分 ― シミュレーションの世界で見つけた真実と「気づき」
- P-Lab. Admin
- 5月4日
- 読了時間: 4分
更新日:5月7日

60分で世界を創造する——それはただのシミュレーションではなかった。
地球の複雑さを映し出す仮想の世界という名のフィールドに、地球のどこかから集った4人、Kenta、Sakura、Haruto、そしてMina。彼らは異なる使命を持ち、異なる価値観を携え、そして一つだけ共通の真実を知ることになる——この世界には、逃げ場がないということを。
匿名も観客もいない。ただ、選択と、その結果だけがある。彼らは“プレイ”していたのではない。“創って”いたのだ。そしてその創造の中で、互いを、そして自分自身を見つめ直すことになった。
プロローグ:静かな始まり
「…たった60分で、世界を変えろって?」
Kentaは自嘲気味に笑った。静かにモニターの前に座る彼の手はわずかに震えていた。
彼にとってリーダーシップとは、「語ること」ではなく、「聴くこと」——そう信じていた。この世界に入るのは初めてではない。だが、他の多くは初参加。 その目に映っていたのは、不安と、そして希望。
今回、Kentaの使命は『環境保護の闘士』。
今、乗り込んだ世界の環境メーターは「3」、地球規模での環境破壊が進んでいる。
Sakuraの使命は『人間賛歌の伝道師』。
やや緊張した様子ながら、まっすぐな目で『慣習的性差別への無関心』を提案したとき、Harutoが口を開いた。
「Sakura…それ、本当に世界のためになると思ってる?」
声には、疑問と戸惑いが滲んでいた。
「時代遅れに聞こえるのはわかってる」Sakuraは続けた。
「でも、あるコミュニティでは、役割が明確なことで安心感や誇りを持てる人もいる。これは誰かを縛るためじゃないの。混乱の中で尊厳を取り戻すためなの。まずは安定をつくって、そこから助けを広げていきたい」
Harutoはそれ以上言わず、自分の使命に目を戻した。彼の使命は『貧困撲滅の聖者』。
彼の頭には、以前訪れた村の学校の風景が浮かんでいた。机も教材もなく、子どもたちは病気で集中できない。ある少女は感染症のせいで、何週間も学校に来られなかった。
「教育が全てを変える。だから俺は、『衛生教育の促進』をやる。健康を守れば、学校に通える。そこから貧困の連鎖を断ち切れるんだ。」
理想と理想がぶつかり合う中で、Minaがそっと言葉を添えた。
「ねえ、私たち…誰かの考え方を変えようとしてるけど、自分は変わろうとしてるのかな。」
彼女の使命は『悠々自適』。その言葉は静かに、しかし深く、皆の胸に響いた。
崩れゆく世界
時間が進むにつれて、世界の状況を示すメーターの数値が大きく揺れ動いていった。
いくつかは上がり、いくつかは急落した。
Kentaは密かに『簡易浄水器の普及』を提案していた。それは彼にとって、ただのアイデアではなかった。祖母が毎日、濁った水を求めて長距離を歩いていた記憶。そして、病気になったあの日のこと。
だが、彼の声は他の大きな声にかき消された。
「邪魔したくなかった。ただ、誰かが気づいてくれるのを待ってたんだ。」
そんな彼に、Minaが小さく微笑んだ。
「でも、それじゃ伝わらないこともあるよ。」
Harutoの効率性重視の施策は短期的成果を生んだ。だがその代償として、環境メーターは急落した。
「こんなはずじゃなかった…」彼は拳を握りしめた。
Sakuraは、自分の提案が社会的な分断を招いたことに気づき、深く沈んだ。
「私、何か間違ってたのかな…」
内なる変容
残り時間が迫る中、世界のバランスは崩壊した。どこか現実世界を重なる。
沈黙の中で、Minaが一歩踏み出す。
「私は、『場所を問わない働き方の実現を推進』してみた。でも…それだけじゃ、人の心の空白は埋まらなかった。 確かに自由は増えた。でも、つながりや意味がなければ、自由も空虚になる。 人が本当に必要としてるのは、“スペース”じゃなくて、“居場所”なんだと思う。
そう気づいてから、世界の見え方が少し変わった。」
それは敗北ではなく、静かな「気づき」だった。
Sakuraがそれに続く。
「私、“正しさ”に固執するあまり、人を傷つけてたかもしれない」
Harutoは深く頷いた。
「俺も…もっと長期的に考えるべきだった。」
ついに、Kentaは、勇気を出して言葉を絞り出した。
「僕は、ちゃんと話したかった。みんなに。だから今、言うよ——ありがとう。」
エピローグ:気づきを胸に、現実へ
みんなで創り上げた世界は、完璧じゃなかった。
控えめに言っても住みたいと思える世界ではなかった。
でも、それで良かった。
4人の中で、何かが確かに芽生えていた。
ぶつかり、悩み、問い直し、語り合う中で、彼らはただの“成果”ではなく、もっと深いものを得ていた。——それが、「気づき(kizuki)」だった。
画面がフェードアウトしていく。それぞれの現実へと戻っていく4人。
でも、彼らはもう、あの60分前の自分ではなかった。
そして——次に彼らが新たな世界を創るとき。その選択は、きっと少し違っているはずだ。