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地球での60分 ― シミュレーションの世界で見つけた真実と「気づき」

更新日:5月7日

地球上の4人の人物と、青い背景の地球の状態を示すメーター
60 mins on the Earth

60分で世界を創造する——それはただのシミュレーションではなかった。


地球の複雑さを映し出す仮想の世界という名のフィールドに、地球のどこかから集った4人、KentaSakuraHaruto、そしてMina。彼らは異なる使命を持ち、異なる価値観を携え、そして一つだけ共通の真実を知ることになる——この世界には、逃げ場がないということを。


匿名も観客もいない。ただ、選択と、その結果だけがある。彼らは“プレイ”していたのではない。“創って”いたのだ。そしてその創造の中で、互いを、そして自分自身を見つめ直すことになった。



プロローグ:静かな始まり


「…たった60分で、世界を変えろって?」


Kentaは自嘲気味に笑った。静かにモニターの前に座る彼の手はわずかに震えていた。


彼にとってリーダーシップとは、「語ること」ではなく、「聴くこと」——そう信じていた。この世界に入るのは初めてではない。だが、他の多くは初参加。 その目に映っていたのは、不安と、そして希望。


今回、Kentaの使命は『環境保護の闘士』。

今、乗り込んだ世界の環境メーターは「3」、地球規模での環境破壊が進んでいる。


Sakuraの使命は『人間賛歌の伝道師』。

やや緊張した様子ながら、まっすぐな目で『慣習的性差別への無関心』を提案したとき、Harutoが口を開いた。


「Sakura…それ、本当に世界のためになると思ってる?」


声には、疑問と戸惑いが滲んでいた。


「時代遅れに聞こえるのはわかってる」Sakuraは続けた。

「でも、あるコミュニティでは、役割が明確なことで安心感や誇りを持てる人もいる。これは誰かを縛るためじゃないの。混乱の中で尊厳を取り戻すためなの。まずは安定をつくって、そこから助けを広げていきたい」


Harutoはそれ以上言わず、自分の使命に目を戻した。彼の使命は貧困撲滅の聖者』。


彼の頭には、以前訪れた村の学校の風景が浮かんでいた。机も教材もなく、子どもたちは病気で集中できない。ある少女は感染症のせいで、何週間も学校に来られなかった。


「教育が全てを変える。だから俺は、『衛生教育の促進』をやる。健康を守れば、学校に通える。そこから貧困の連鎖を断ち切れるんだ。」


理想と理想がぶつかり合う中で、Minaがそっと言葉を添えた。


「ねえ、私たち…誰かの考え方を変えようとしてるけど、自分は変わろうとしてるのかな。」


彼女の使命は『悠々自適』。その言葉は静かに、しかし深く、皆の胸に響いた。



崩れゆく世界


時間が進むにつれて、世界の状況を示すメーターの数値が大きく揺れ動いていった。

いくつかは上がり、いくつかは急落した。


Kentaは密かに『簡易浄水器の普及』を提案していた。それは彼にとって、ただのアイデアではなかった。祖母が毎日、濁った水を求めて長距離を歩いていた記憶。そして、病気になったあの日のこと。

だが、彼の声は他の大きな声にかき消された。


邪魔したくなかった。ただ、誰かが気づいてくれるのを待ってたんだ。」


そんな彼に、Minaが小さく微笑んだ。


「でも、それじゃ伝わらないこともあるよ。」


Harutoの効率性重視の施策は短期的成果を生んだ。だがその代償として、環境メーターは急落した。


「こんなはずじゃなかった…」彼は拳を握りしめた。


Sakuraは、自分の提案が社会的な分断を招いたことに気づき、深く沈んだ。


「私、何か間違ってたのかな…」



内なる変容


残り時間が迫る中、世界のバランスは崩壊した。どこか現実世界を重なる。

沈黙の中で、Minaが一歩踏み出す。


「私は、『場所を問わない働き方の実現を推進』してみた。でも…それだけじゃ、人の心の空白は埋まらなかった。 確かに自由は増えた。でも、つながりや意味がなければ、自由も空虚になる。 人が本当に必要としてるのは、“スペース”じゃなくて、“居場所”なんだと思う。

そう気づいてから、世界の見え方が少し変わった。」


それは敗北ではなく、静かな「気づき」だった。


Sakuraがそれに続く。


「私、“正しさ”に固執するあまり、人を傷つけてたかもしれない」


Harutoは深く頷いた。


「俺も…もっと長期的に考えるべきだった。」


ついに、Kentaは、勇気を出して言葉を絞り出した。


「僕は、ちゃんと話したかった。みんなに。だから今、言うよ——ありがとう。」




エピローグ:気づきを胸に、現実へ


みんなで創り上げた世界は、完璧じゃなかった。

控えめに言っても住みたいと思える世界ではなかった。


でも、それで良かった。

4人の中で、何かが確かに芽生えていた。


ぶつかり、悩み、問い直し、語り合う中で、彼らはただの“成果”ではなく、もっと深いものを得ていた。——それが、「気づき(kizuki)」だった。


画面がフェードアウトしていく。それぞれの現実へと戻っていく4人。


でも、彼らはもう、あの60分前の自分ではなかった。


そして——次に彼らが新たな世界を創るとき。その選択は、きっと少し違っているはずだ。

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