枯れた土に、まだ「肥料」を撒き続けますか?
- P-Lab. Admin
- 2 日前
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更新日:1 日前
脱・やりっぱなし研修。「自律的に成長し続ける組織」を育てる、土壌づくりの科学
1. システム思考で読み解く「肥料」の罠
SDGs推進や変革リーダーの育成において、多くの企業は「正解」を教えること(演繹的アプローチ)から始めがちです。 ピーター・センゲは『学習する組織』の中で、こうした安易な解決策への依存を「問題のすり替え(Shifting the Burden)」というシステム原型で警鐘を鳴らしています[1]。

これを農業に例えるなら、痩せた土地に化学肥料を撒くようなものです。肥料(外部からの知識注入)は即効性という「対症療法」にはなりますが、それに頼りすぎると、組織が本来持つ自ら育つ力(根本的な解決能力)は弱体化します。結果、肥料を与え続けなければ枯れてしまう、依存的な組織構造を作ってしまうのです。

たとえば、社員研修を繰り返しても「効果がなかなか実感できない」「現場の行動が一時的にしか変わらない」と感じる時、組織内でまさにこの現象(対症療法への依存)が起きている可能性が高いと言えます。
2. 根本解決としての「帰納的アプローチ」
もちろん、枯れかけた作物を救うために、化学肥料(即効性のある正解)が必要な局面も確かにあるでしょう。しかし、組織が自律的に進化する「本当の成長」は、外からの投入ではなく、内側からの「帰納的な学び」からこそ生まれるものです。
体験型学習やPBL(プロジェクト学習)が目指すのは、一人ひとりの原体験から意味を紡ぎ出し、組織の血肉にしていくこと。これは、外部からの投入に頼るのではなく、「土壌そのもの」を豊かに耕す「根本解決」のアプローチです。 センゲが説く「学習する組織」とは、まさにこの土壌(構成員の意識と関係性)が豊かで、人々が継続的に能力を広げ続ける場のことを指します。
土壌が豊かであるということは、単に雰囲気が良いということではありません。変化の激しい時代において、指示待ちではなく自ら課題を発見し解決できる組織(レジリエンスの高い組織)になることを意味します。これこそが、人的資本経営における最大の資産となります。

この「土壌づくり」のプロセスは、以下の3段階で深化します。

3-1. 【体験】「メンタルモデル」を揺さぶる(エージェンシーの回復)
座学だけの研修では、参加者は「傍観者」になりがちです。しかし、シミュレーションゲームという没入環境では、自身の行動がリアルタイムで世界に影響を与えます。
「自分の選択が未来を変える」という確かな手触り、これは、バンデューラは概念化したと言われる”エージェンシー”[2]の特徴の一つです。これを得た時、参加者は固定化された「メンタルモデル(自分や世界に対する固定観念)」の枠組みを自覚し、そこから抜け出す準備ができます。これは、センゲが重視する「個人のマスタリー」の第一歩です。
3-2. 【振り返り】Uの谷を潜り、源流に触れる(プレゼンシング)
体験の後に行う「振り返り」は、オットー・シャーマーがU理論で示した「プレゼンシング(源流につながる)」の時間です。 ここでは、論理的な分析だけでなく、言葉になる前の感覚(非言語領域)にも光を当てます。
「なぜあの時、動けなかったのか。その時、どんな感覚が体に現れていたのか」。
身体で感じた何らかの違和感(フェルト・センス[3])を拾い上げることで、過去のデータの再生(ダウンローディング)を止め、自身の奥底にある価値観の源泉に触れます。
3-3. 【対話】「共有ビジョン」と関係性の質(チーム学習)
内側から湧き上がった気づきは、他者との対話を通して、組織全体の「共有ビジョン(Shared Vision)」へと昇華されます。 ここで必要なのは、センゲが言う「チーム学習」であり、ダニエル・キムの「成功の循環」[*4]を回すことです。
互いの背景を想像する「エンパシー(共感)[5]」を持って聴き合うことで、体験中に感じていたあやふやな感覚に「輪郭」が生まれます。関係性の質(土壌)が高まることで、組織は過去の延長線上にはない「ありえるかもしれない世界(Possible World)」を共創するステージへと進むのです。
与えられた正解を覚えることと、試行錯誤の末、自分のなり解を見つけること、この違いだと思います。
参考文献
この帰納的アプローチに興味がある方は、是非お気軽にお問い合わせください。




