種を蒔くように─この可能性の世界で─第1章 種を蒔くとき
- P-Lab. Admin
- 4月28日
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更新日:5月7日
それは、ささやかな変化だった。
朝の空気に、わずかなざらつきが混じった。
誰かが手に持った端末が、静かに警告を鳴らした。
──経済、2。
サクラが、ふと立ち止まった。
そして、隣にいたコブシにそっと声をかけた。
「……下がってる。」
コブシは、短くうなずいた。
端末の数字を確かめるまでもなく、 この世界のかすかな軋みを、肌で感じ取っていた。
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ヤナギも、静かに眉をひそめた。
彼女の目指す豊かさ──それは単なる個人の富ではない。
世界全体を、少しでも良い方向へ導く力を、 そっと築くことだった。
けれど、今は、何か手を打たなければならない。
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サクラが、小さな声で問いかけた。
「……誰か、動ける?」
重い沈黙が落ちたあと、 コブシが一歩踏み出した。
「俺が行く。」
彼は工具を手に取り、 老朽化した採掘場へと向かった。
そこでは、古い技術が限界を迎えていた。
コブシは、掘削機の設計を見直し、 より少ない資源で、より効率的に掘削できるよう、改良を加えた。
重機が動き出す。
深く、ゆっくりと、新たな富をこの地にもたらすために。
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その間、ヤナギもまた、別の場所へ向かっていた。
彼女が足を踏み入れたのは、 かつて豊かな実りをもたらした、しかし今は荒れ果てた農地だった。
ヤナギは、そこに散らばった種を集め、 一粒一粒、丁寧に保存し始めた。
多様な種子を守ること。
それは、今すぐの利益には結びつかない。
けれど、未来の世界にとって、かけがえのない財産となる。
ヤナギは、静かに作業を続けた。
誰にも気づかれない場所で、 誰かの未来のために。

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二人の行動は、静かに、しかし確実に世界に波紋を広げた。
経済は、まだ脆かった。
けれど、環境は、ほんのわずかに力を取り戻していた。
それは、十分な実りではなかった。
けれど、誰かが動き、 世界がわずかでも前へ進んだ確かな証だった。
──まだ、この世界は、生きている。
誰も声に出さなかったが、 皆、どこかでそう感じていた。
※ この物語は、実際に4月のポッシブルワールド・ディスカバリーセッションで起きた世界の記録を元に作られたフィクションです