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種を蒔くように─この可能性の世界で─第1章 種を蒔くとき

更新日:5月7日

それは、ささやかな変化だった。


朝の空気に、わずかなざらつきが混じった。 

誰かが手に持った端末が、静かに警告を鳴らした。


──経済、2。


サクラが、ふと立ち止まった。 

そして、隣にいたコブシにそっと声をかけた。


「……下がってる。」


コブシは、短くうなずいた。

 端末の数字を確かめるまでもなく、 この世界のかすかな軋みを、肌で感じ取っていた。


**


ヤナギも、静かに眉をひそめた。

彼女の目指す豊かさ──それは単なる個人の富ではない。 

世界全体を、少しでも良い方向へ導く力を、 そっと築くことだった。


けれど、今は、何か手を打たなければならない。


**


サクラが、小さな声で問いかけた。


「……誰か、動ける?」


重い沈黙が落ちたあと、 コブシが一歩踏み出した。


「俺が行く。」


彼は工具を手に取り、 老朽化した採掘場へと向かった。

そこでは、古い技術が限界を迎えていた。

コブシは、掘削機の設計を見直し、 より少ない資源で、より効率的に掘削できるよう、改良を加えた。


重機が動き出す。

深く、ゆっくりと、新たな富をこの地にもたらすために。


**


その間、ヤナギもまた、別の場所へ向かっていた。


彼女が足を踏み入れたのは、 かつて豊かな実りをもたらした、しかし今は荒れ果てた農地だった。


ヤナギは、そこに散らばった種を集め、 一粒一粒、丁寧に保存し始めた。


多様な種子を守ること。

それは、今すぐの利益には結びつかない。

けれど、未来の世界にとって、かけがえのない財産となる。


ヤナギは、静かに作業を続けた。

誰にも気づかれない場所で、 誰かの未来のために。



種を蒔く


**


二人の行動は、静かに、しかし確実に世界に波紋を広げた。


経済は、まだ脆かった。

けれど、環境は、ほんのわずかに力を取り戻していた。


それは、十分な実りではなかった。

 けれど、誰かが動き、 世界がわずかでも前へ進んだ確かな証だった。


──まだ、この世界は、生きている。


誰も声に出さなかったが、 皆、どこかでそう感じていた。



※ この物語は、実際に4月のポッシブルワールド・ディスカバリーセッションで起きた世界の記録を元に作られたフィクションです

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