top of page

ワークショップ観察・分析詳細レポート:ポッシブルワールド・シミュレーションがもたらすマインドセットと行動の深い変容

  • 8月10日
  • 読了時間: 6分

更新日:8月12日


1. 導入:セッションの背景と特異性


本レポートは、主にオーストラリア、ダーウィンの公立高校の学生と、その姉妹校である日本の高校の学生の混合メンバー25名を対象に、全編英語で実施された「ポッシブルワールド」シミュレーションにおける参加者の行動およびマインドセットの変容を分析したものである。


参加者の年齢層や文化的背景もあり、当初は人前で積極的に発言することをためらう生徒が多く見受けられた。そのため、自己の内面で起きているパラダイムシフトを「発言」等の目に見える形で認識することは非常に困難を極めた。しかし、彼らが発する空間の音量、物理的な行動範囲、表情、そして残されたデータに記録された言葉以上の情報に確かな変容が刻まれていた。


明るい教室のような部屋で、丸いテーブルを囲み男女のグループが話し合う、和やかな雰囲気の会議風景。


2. 第1フェーズ:不均衡な世界の創出と「無力感」の現れ


第1ラウンドのシミュレーション中、気づいたのは教室内の静けさであった。生徒たちは手にしたゴール、理解したルールそして、自分のコンフォートゾーンの枠内に留まり、他者との関わり合い(行動範囲)も極めて限定的であった。その結果として創り出されたのは、経済成長のみが突出し、環境と社会が犠牲になる不均衡な世界である(図1、表1参照)。



白板に「World Condition Meter」と書かれ、Economy 16→18、Environment 4→12、Society 3→14の磁石が並ぶ。右に2/10、1/10。
図1.世界の状況メーター



表1:ワールドコンディションメーター(WCM)の推移

指標

第1ラウンド終了時

第2ラウンド終了時

変化の傾向

Economy(経済)

16

18

高水準を維持しつつ微増 (+2)

Environment(環境)

4

12

危機的状況から大幅に回復 (+8)

Society(社会)

3

14

最低水準から劇的に改善 (+11)




環境(4)と社会(3)に関する世界の状況メーターが示す客観的な危機に対し、生徒たちは限られた英語の語彙を振り絞り、付箋に「bad」、「sad」、「difficult」、「disappointed」、「poor」、「greedy」、「complex」と記した。


壁に貼られたカラフルな付箋に、difficult、sad、bad、disappointed、poor、guiltyなど感情語が手書きで並ぶ
図2a.第1ラウンド後、参加者が選んだ一語

特筆すべきは、ワークショップ前の意識調査(後述の図3aおよび表2)において、「自分はこの世界にどのくらい影響を与えているか」という問いに対し、低い数字を選択した生徒が多数存在したことである。これを反映するかのように、シミュレーションで自分たちが作り上げた世界に対しても、複雑な世界のシステムの前に、無力感や悲観感を表現する言葉が選ばれていた(図2a参照)。




3. ホストとしての場の見守り:気づきを待つ覚悟


この重い空気の中で、私は場を牽引して解決策を教えたり、鼓舞するといったような外側から働きかけるのではなく、あくまで「ホスト」という立場に徹した。参加者の内側には、自ら世界を変容させる可能性がすでに眠っていると信じていたからである。介入は以下の極めて限定的なものに留めた。


  1. 感情の受容: 第1ラウンドの歪んだ世界に対して抱いた「悲しさ」や「失望」といった素直な気持ちと向き合う時間を持ち、この場には「正解も不正解もない」ことを再度伝えた。


  2. 客観的データの提示: 世界の状況メーターと、それをもとにした現状について淡々とレポートした。


  3. 視点のシフト: ゴールカードの2文目にある「バランスの取れた世界」という言葉を読むように促し、これもゴールの一部であることを一緒に確認した。それ以上のことは何もせず、彼ら自身の内発的な「気づき」が生まれるための余白をホールドした。

  4. 可能性の探求:改めてゴールカードを見直した後、これまでの言動、世界の状況、そしてゴールを振り返り、できそうだけど、やっていなかったこと、つまり可能性、について考える時間を取った。


    「もし、セカンドチャンスがあるとしたら、どんなことが、できそうか。」


    この問いに、参加者の一人がこう提案した。


    「もっと、みんなと交渉してみたい」


教室全体として、声をあげる人は少なかったが、そこも無理に聞き出すことはせず、セカンドチャンスである、第2ラウンドが始まった。




4. 第2フェーズ:行動の自己解放と世界の劇的な回復


第2ラウンドが始まると、空間のエネルギーは静かにでも確かに変化した。依然として大勢の前で大声をあげての「発言」こそ少なかったものの、教室に響き渡る生徒同士の交渉の声や様々な音のボリュームは明らかに上昇した。また、自席周辺に留まっていた生徒たちが教室全体へと物理的な行動範囲を広げ、その表情には多くの笑顔が見られるようになった。傍観者に徹していただいた教員からも、「笑顔が増えてます」とのコメントが聞かれた。


自ら少しだけ枠を緩め、システムへアクティブに関わった結果、世界はEconomy(経済) 18、Environment(環境) 12、Society(社会) 14という調和を取り戻した。振り返りの付箋は、達成感と喜びに満ちた次の言葉で溢れかえった。「Happy」、「very happy」、「good」、「proud」、「glad」、「inspired」、「Balanced」(図2b.参照)。


白い壁に、紫・ピンク・黄・水色の付箋が並び、Happy、Proud、good、Balanced、Inspiredなどの手書き文字が見える。
図2b.第2ラウンド後、参加者が選んだ一語



5. 参加者の内面で起きた変化ーマインドセットシフト


シミュレーションで観察されたこれらの行動変容は、ワークショップ体験前後で実施した意識調査(0〜10のスケール)の数値データにも裏付けられている。


木枠の白板に、Q1「How much do you like your world today?」とQ2「How much impact do you have on the state of world?」が書かれ、青黄緑の磁石が0〜10の線上に並ぶ。
図3a.参加者のこころの状態ーワークショップ前(BEFORE)

木枠の白い掲示板に英語の質問文があり、青・黄・緑の丸い磁石が0〜10の目盛り上で右寄りに並んでいる。
図3b.参加者のこころの状態ーワークショップ後(AFTER)




表2a.Q1: 今の現実世界をどれくらい好きか?


Before

After

平均値 (μ)

6.9

8.8

分散 (σ²)

2.1

1.1


【連帯感の醸成】 

評価の平均値は、スケールの高評価側へ有意な推移を見せている。現実世界に対する好感度スコアの上昇にとどまらず、回答の分散が半減したという事実は重要な点である。これは、参加者全員が世界創りのシミュレーションを通して共通の達成感や新たな可能性を見出し、それが現実世界への肯定的な認識として強く統合・共有されたことを示唆している。




表2b.Q2: 自分は現実世界にどのくらい影響を与えているか?


Before

After

平均値 (μ)

4.4

7.2

分散 (σ²)

7.2

4.5


【当事者意識の覚醒】 

平均値が飛躍的に上昇し、分散も大幅に縮小した。ワークショップ前に顕著であった「影響力」に関する低評価帯のマグネットが完全に消失したことは、特に注目に値する変化である。これは、参加者が抱いていた複雑なシステムに対する無力感が払拭されたことを意味する。「自分たちの意識と行動が世界を創る」という確かな気づきが深く肚落ちし、その主体的な感覚が、現実世界に対する眼差しにも力強く紐づけられたことを示唆している。



特にQ2の変化は重要である。

第2ラウンドの付箋に「inspired」や「proud」と記した生徒がいた事実が示すように、彼らはシステムに対する無力な傍観者であることをやめ、自らの行動で主体的に世界を創り出すステークホルダーへと自己認識をシフトさせたのである。




6. 結論:真の変容をもたらすもの


ワークショップの最後に、私は参加者に向けて一つの問いを投げかけた。


「同じルール、同じ時間、同じ住人、同じカード。第1ラウンドと第2ラウンドで、これだけ世界が劇的に変化したのはなぜか?」


外部のシステム条件は一切変わっていない。唯一変わったのは、彼ら自身のあり方である。行動範囲を広げ、声を掛け合い、笑顔で協力し合ったこと。その結果として世界が回復したという経験を通じて、彼らの中に非常に深く、確かな肚落ちが起きていたと言える。


世界を変えたのは、システムではなく、彼ら自身のマインドセットのシフトそのものである、という言葉でセッションを終えた。


Every world is up to our mindset and action.


静かだった高校生たちが、たった短時間で自らの内なる可能性に気づき、行動を変え、シミュレーション上の世界の物語を根本から創り変えた。本セッションは、一人ひとりのマインドセットと行動こそが、世界を形作る最大の要因であるという真理を見事に体現した事例となった。

Mask group

ポッシブルワールドを体験

bottom of page